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タイトル:
境界性パーソナリティ障害などの感情調節困難のための認知行動療法:弁証法的行動療法、スキーマ療法などから学ぶ
所属:
長谷川メンタルヘルス研究所所長、北海道医療大学客員教授、国際基督教大学非常勤講師
概要
認知行動療法は従来、うつ、不安、強迫など診断された単症状をターゲットにして開発され、洗練され、実証データを蓄積することを通して、臨床現場でメジャーな立場を発展させてきました。しかし、実際の臨床では、複数の症状を併発している患者、クライエントが多いと思います。最近、D. Barlowらはうつ、不安など複数の症状にターゲットを当てたTrans-diagnostic Approach(超診断範疇アプローチ)を提唱しています。また、J. Grossらは感情調節という観点から、統合的包括的な臨床アプローチを提案しています(Handbook of Emotion Regulation)。
その中で弁証法的行動療法(DBT)の創始者のM. Linehanは境界性パーソナリティを広範な(Pervasive)感情調節機能不全だと説明しています。DBTが発展するとともに、境界性パーソナリティだけでなく、他のパーソナリティ障害、PTSD,摂食障害、行為障害、発達障害、思春期の自傷/自殺行動などの衝動的行動、双極性障害II型などの感情調節の困難を伴う障害に応用されてきています(L. Dimeff & K. Koerner, 2007)。従って境界性パーソナリティ障害の認知行動療法に焦点を当てることは、感情調節の問題の認知行動療法の理解に寄与するのではないかと考えられられます。
スキーマ療法の創始者であるJ. Young(2008)も、スキーマ療法は境界性パーソナリティ障害などのII軸障害を含む、「治療抵抗性の困難を抱える患者」のためのアプローチの必要性から開発されたと説明しています。即ちスキーマ療法は、J. Youngが、標準的認知療法の、パーソナリティ障害圏の患者のための治療法としての限界性を補うために発展させた、包括的統合的な認知行動療法であるといえるでしょう。J. Youngは、スキーマ療法を認知行動療法、力動的心理療法、アタッチメント理論、ゲシュタルト療法の特徴を統合的に兼ね備えていると主張しています。また、特に境界性パーソナリティ障害の治療のために、スキーマ・モードという概念とモード・ワークを最近発展させ、境界性パーソナリティ障害の広範な感情調節の困難さに対応できるように工夫が付け加えられています。オランダで行われた大規模なRCT研究において、週2回、3年ほどで約70%が改善、50%がBPDの診断基準を満たさなくなったという報告があります。
この研修では感情調節困難のための認知行動療法、特に弁証法的行動療法とスキーマ療法の紹介と比較検討を通して、日本での感情調節困難のための認知行動療法の可能性について考察します。
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